河床低下に伴う河岸崩壊により、河川環境が悪化しつつあることは前号で述べた。今回も引き続き北海道などの事例を中心に河床低下の問題に焦点をあててゆきたい。

　まずは前号のおさらいとして、河床低下と河岸崩壊のメカニズムについて繰り返し説明しておく。

　渓流域における河床の高さ（標高）は本来、上流から流下してくる土砂と下流に流出する土砂によってバランスが保たれている。ところがダムにより土砂供給が遮断されると、ダム下流部の河床は洗堀によって低下することになる。

　土砂が絶たれた下流部ではまず、流されやすい砂利や礫が吸い出されるように流される。すると支えを失った小石が流れるようになり、増水時はより大きな石が流され河床は下がってゆく。

　河床低下が始まると両岸の岸が削られて勾配はきつくなり、そこにある石がずり落ちてくる。この状態のまま次の増水に見舞われると斜面は崩壊。水辺林の根元は砂利が抜かれることで根が露出し、しだいに川に倒れ込む。そしてついには立ち木そのものが流出してしまうのだ。

　水辺林を失った川がどのような姿になるかといえば、瀬や淵が連続していた変化に富んだ流れを失うことを意味する。川幅が広がり、次第に単調な渓相へと変貌してしまうという具合だ。こうなればもはや渓流魚の生息に適した環境とはいえないだろう。ダムは魚類の移動を阻害するだけでなく、河床低下という副作用によって生息できる環境そのものをも奪っていることになるわけだ。

　砂防ダムをはじめとして多目的ダムなどすべてのダムが、河床低下を引き起こす原因のひとつになっている。このことは無論砂防技術者らも認めているところである。ただし認識が異なるのは、彼らの多くが「未満砂のダムによって河床低下が進行する」と考えている点であろう。つまり満砂すれば「すべての土砂が下流に流れる」と考えているのだ。

　未満砂のダム（土砂ではなく水が貯まっている砂防ダムなど）が下流部への土砂供給を遮断しているのは当然だが、満砂したダムは果たして「すべての土砂を下流に流す」のだろうか。

　前号で紹介した長野県の遠山川では、近年完成したばかりの砂防ダムを除いて長期間にわたり満砂状態にある。また北海道の砂蘭部川（遊楽部川支流）、そして須築川も同様に、満砂しているにも拘わらずダム下流部は河床低下が進行中なのだ。「すべての土砂が下流に流れる」のであれば、すでに河床低下は収束しているはずなのだが、そうなっていない現実がある。

　その原因を探るには、砂防ダムの機能について理解しておく必要がある。その機能のひとつが河床低下と関係しているように思えてならないからだ。

　砂防技術者らはたびたび「砂防ダムは満砂してから機能する」と話す。一方の釣り人は「すぐに満砂してしまうから無駄だ」との意見を寄せるが、砂防の理論からすればその主張は的外れだといわれてしまう。満砂後の砂防ダムは、ダムがない状態と比較して河床勾配を和らげることになるが（傾斜を緩くする）、それこそが砂防の役割のひとつに掲げられているからだ。

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洪水によって河岸が完全に崩壊。河畔林の多くが流されてしまう。川幅が広がることで水位も低下し、変化の乏しい流れとなる

河床低下によって河岸の浸食が始まり、河岸崩壊が進行する

上流に砂防ダムなどが建設されると、土砂の供給不足により河床低下が進行することになり、河畔林が傾き始める

上流にダムがない河川は河床高が安定しており、水辺まで河畔林が発達している